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【大野裕の言の葉だより】 第37回 『私も最初は一人だった』

2025年09月01日 01:51

 大野裕の言の葉だより 

メールマガジン 「ぬくもっとメール」 vol.39 [2025/8/27配信]


第37回
『私も最初は一人だった』

7月18日は、アーロン・ベック先生の誕生日にちなんだアーロン・ベック・デイでした。

私がベック先生に最初に会ったのは1987年でした。コーネル大学精神科のアレン・フランセス先生に勧められて認知行動療法の勉強を始め、スーパーバイザーのバルック・フィシュマン先生に紹介していただいてペンシルベニア大学のベック先生のクリニックを訪問しました。窓のないこぢんまりとした部屋で私を迎えてくださったベック先生はアメリカ人としては小柄な印象を受けました。

緊張して座っている私に穏やかに話しかけていたベック先生は、「日本で認知療法はどの程度使われていますか?」と尋ねられました。そのころベック先生は60歳代半ばで、ようやく認められるようになった認知療法です。日本での状況を聞きたいと思われたのは無理がありません。

しかし、私は戸惑いました。日本ではほとんど知られていなかったからです。本当のことを言うと気を悪くされるのではないかと考えながら、でも思い切って、「知っている人はおそらく少ないだろう」と答えました。すると、ベック先生は、「私も最初は一人だったんだ」とおっしゃったのです。

その言葉を聞いて私は少し驚き、肩の力が抜け、気持ちが楽になりました。今思えば、これが、私がベック先生の認知療法を受けた瞬間でした。「不愉快になられるのではないかと考えていたのが、そうではなかった。」「アジアの小国から会いに来た私を、自分と同じ立場に引き上げてもらった。」

いろいろな考えが頭を駆け抜けました。認知が変わるというのを体験した瞬間でした。対話を通した体験の大切さを感じ、それから毎週水曜日、片道三時間かけてベック先生の勉強会に参加させてもらうことになりました。


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