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【大野裕の言の葉だより】 第12回『問題にばかり目を向けすぎると・・・』

2024年05月26日 12:46

 大野裕の言の葉だより 

メールマガジン 「ぬくもっとメール」 vol.12 [2024/5/6配信]


第12回

『問題にばかり目を向けすぎると・・・』


ケース検討会で認知行動療法の面接の報告を聞いていると、次第に気持ちが重くなってくることが、少なからずあります。
それは、相談に来た人の問題ばかりが報告されるためです。
これまでの生まれ育ちの問題点や、いわゆる症状に苦しむようになってからの経過を聞いていると、
その人が、どうしようもない問題を抱えているどうしようもない人のように思えて、気が重くなるのです。

たしかに、悩みをどうにかしたいと考えて相談や治療に来ているのですから、
その問題にきちんと目を向けて対処法を一緒に考えていくことは大事です。
しかし、問題にばかり目を向けていたのでは、お互いに気が重くなって、先に進もうという気持ちが消えていきます。
認知行動療法では、その問題に上手に対処できる力を見つけ、育てていく事が大事です。

具体的に考えてみましょう。
『うつと不安の認知療法 第2版』(創元社)を書いたクリス・パデスキー先生は、レジリエンスに目を向けた認知行動療法を提唱しています。
そのなかで、これまでの苦しい体験をその人がどのように切り抜けてきたかに目を向けるなかで、その人の心の力がわかってくると書いています。

パデスキー先生が日本でワークショップを開いたとき、うつ病に苦しんでいる人の例を挙げて説明していました。

その人は何とか仕事には行けていましたが、抑うつ症状のために集中力が落ちて、仕事を思うように進めることができないと訴えていました。
何とか仕事を終えて帰宅すると、ドッと疲れが出て、食事も思うように喉を通りません。
ネコを撫でながらボンヤリと時間を過ごし、寝ようとするのですが、なかなか寝つけません。

これだけ聞くと、抑うつ気分や集中力の低下、食欲不振、不眠などのうつ症状があることがわかります。

しかし、その一方で、集中力が落ちていても出社して、大きなミスなく仕事をこなせています。
ネコを撫でながら心を落ち着ける工夫ができています。
それができるのは、今の仕事にやりがいを感じているからかもしれません。
もちろん、頑張りすぎて自分を追い込んでいる可能性もありますが、
その人のこうした工夫も念頭に置きながら、その人らしい生き方を一緒に考えることで、次に進む道が見えてきます。


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